今日は私も打ちたい気分!
だから、ラケットを持って来た。部活は休みだし、このままストリートテニス場へ行くつもり。

マネージャーとして球出しをしたり、みんなのプレイを見たりしていると、たまに自分もやりたくなるんだよね。
だったら、女子テニス部の方に入ってれば良かったんじゃないの?とも思うけど。いやいや!マネージャーだって、やりがいあるし、楽しいし!

でも、やっぱり自分もやりたくなる時があって。結構、ストリートテニス場に訪れる。
そしたら、そこで、不動峰の杏ちゃんとも友達になれた。

杏ちゃんは私以上に、ここに来てるみたいで、私が初めて来た時、優しくルールを教えてくれた。
そして、ここは基本的にダブルスしか行われない、ということで、初めての私とペアまで組んでくれた。

・・・・・・そんな親切な杏ちゃんが、「氷帝」って単語を聞いた瞬間、とても嫌そうな顔をしたのも、忘れられない思い出だ。

お互いの名前や学年、そして出身学校を話していたら、杏ちゃんが跡部先輩の名を出した。
そんなに跡部先輩は有名なのかと思ったら・・・・・・前に絡まれたことがあったらしい。
杏ちゃんは、自分も悪いのかもしれないけれど、と言いながら、簡単にその時のことを話してくれた。

・・・・・・うん、とても跡部先輩らしい。
正直、そんなことを思ってしまった。

だって、跡部先輩って、基本的には優しくて、素敵な部長で、憧れの先輩の一人ではあるけれど。たまに・・・・・・いや、結構?挑発的なところがある、と言うか・・・・・・。
それで、向日先輩や宍戸先輩なんかは、跡部先輩への口調が厳しい時もある。

何にせよ、共通の知人もいる、ということで、私たちはすぐに仲良くなった。

もう私もそれなりにコートの常連だし、杏ちゃん以外の人達とペアを組んだこともある。
でも、やっぱり杏ちゃんとも組みたいし、楽しくお喋りだってしたい。
だから、突然だけど、昨日メールしてみたら、「私も行く」って返事をくれた。

・・・・・・今のところ、特に「無理になった」という連絡も無いし、会えるかな!
なんて、ウキウキ気分で教室を出ようとした時。



。」

「ん?」



クラスメイト、かつ、部の仲間・・・・・・ついでに言うならば、私の好きな人でもある、日吉に呼び止められた。
本当は、日吉に声をかけられただけで、さらにテンションが上がってしまうけれど、何とか抑えて、冷静に振り向いた。



「今日はストリートテニス場へ行くのか?」

「うん、そうだよ。部活、休みだしね。」

「俺も一緒に行ってもいいか?」

「えっ!?う、うん!そりゃ、もちろん!!」



・・・・・・あ。せっかく抑えてたのに。
あまりの嬉しさに、結局ハイテンションで返してしまった。
でも・・・・・・。



「日吉って、あそこに行ったことあるんだっけ?」

「いや、先輩たちやお前から話を聞いたことがあるだけだ。」

「だよね?それなのに、突然どうしたの?」

「今日は実戦練習がしたくなってな。」

「でも、あそこは基本的にダブルスしかできないよ?」

「ああ。だから、お前にペアを頼みたい。」

「そ、そんな・・・・・・!う、嬉しいけど、足引っ張るだけだよ・・・・・・?」

「問題ない。むしろ、それぐらいの方が練習になる。」



そう言いながら、意地悪そうな笑みを浮かべる日吉。
でも、きっと、これは私が気を遣わずに済むよう、わざとそうしてくれてるんだと思う。
日吉って、本当は結構優しいからな〜。それに、そういう表情もカッコイイとか思っちゃうしね・・・・・・!
と、内心じゃデレデレだけど、私もわざと拗ねたように返すことにした。



「それじゃあ、遠慮なく足を引っ張らせてもらいますっ!」



その後、他愛もない話をしながら、ストリートテニス場に向かった。
近くまで来ると、階段上に杏ちゃんの姿が目に入った。



「――ちゃん!」



杏ちゃんもこっちに気付いたみたいで、手を振ってくれた。
私はそれに返しながら、日吉に説明をする。



「あそこにいるのは、不動峰の杏ちゃん。前に宍戸先輩と試合をされた橘さんの妹さんで・・・・・・。」



よく見ると、杏ちゃんの横に、もう一人見えた。
あれは・・・・・・神尾くんか。



「その隣にいるのは、神尾くんだね。」



階段を上り切り、あらためて杏ちゃんと挨拶を交わす。



「久しぶりー!昨日、急にメールしてゴメンね?」

「いいのよ。久しぶりにちゃんと会えるんだから、嬉しかったわ。」

「私も!・・・・・・それに、神尾くんも来られたんだ?」

「そうなの。学校から出ようとした所で、神尾くんに呼び止められて。事情を説明したら、一緒に来てくれたの。ね?」

「あ、うん!ちょうど俺も打ちたかったし。」

「人数が奇数になっちゃうかも、って思ってたんだけど、ちゃんも今日は一人じゃなかったのね。」

「うん。私も杏ちゃんと同じように、教室を出る時に呼び止められて。」

「もしかして、彼氏?」



杏ちゃんはにこりと微笑む。



「なっ・・・・・・!!ち、違うよ!!同じ部で、クラスメイトの日吉!!」

「あら、そうなの?ごめんなさい。」



そう言った杏ちゃんは、依然として笑みを浮かべている。
・・・・・・まさか、わかっててやってる??好きな人がいる、って話はしたことあるけど・・・・・・。杏ちゃん、そんなことする子じゃないよね?!



「あれ?氷帝の日吉に、不動峰の神尾までいるじゃねぇか。」



動揺しているところに、後ろから誰かが現れた。・・・・・・正直、助かった!!



「青学の桃城くんじゃない!」

「なんだ、橘妹までいたのか。」

「もう・・・・・・。何度も杏だって言ってるじゃない。」



そして、そんなやり取りを見てると、私も言い返したくなる。



「杏ちゃん、モテモテだね。」

「な、な、な、何言って・・・・・・!?」



けれど、なぜか焦ったのは、杏ちゃんじゃなく、神尾くんの方だった。
・・・・・・いや、なぜか、って言うか。神尾くん、やっぱり杏ちゃんのこと、好きなんだ。前からそうかなーとは思ってたけど。



「テニスやらないのか?」

「そうだね、ごめんごめん。」



呆れたような日吉に促され、ようやくコートの方に目を向けた。



「あ、ちょうど誰もいないんだ?」

「ええ、そうよ。それじゃ、人数も揃ったし、始めましょうか。」

「あれ?でも、桃城くんも来たし・・・・・・誰から始める?」

「最後に来たんだから、当然審判だよな!」

「ちぇっ、しゃーねぇな。」



神尾くんに言われ、桃城くんは審判台に着いた。
そして、私たちはラケットを準備して、コートに入る。



「不動峰対氷帝ね。」

「そ、それはそうだけど・・・・・・私はあくまでマネージャーだし・・・・・・。」

。やるからには勝つぞ。」

「俺も容赦はしねぇ!」



いや、そりゃ、試合は真剣にやるけど。負けたくはないけど。
私の場合、好きな人の足を引っ張りたくない、とか余計な緊張もあるわけで・・・・・・!!



「何か賭けでもしましょうか?例えば・・・・・・負けた方は勝った方の言うことを聞く、とか。」

「えぇーっ!?」

「おい、早く始めろよー。俺も試合してぇんだから。」

「じゃあ、そういうことで・・・・・・フィッチ?」



杏ちゃんがサラッと試合を始め、私の異議は流されてしまった。

結果・・・・・・。



「ゲームセットウォンバイ氷帝、日吉・ペア!6-4!」



何とか、日吉に迷惑をかけすぎることなく、勝利することができた。



「負けちゃったわね、残念。」

「だな。別に油断してたわけじゃねぇけど、予想外に二人のコンビネーションが良かったな。」

「俺自身、意外にも動きやすくて驚いた。」

「本当息ピッタリだったわ。まるで恋人同士みたいに。」



だから、杏ちゃん!!
そうやって微笑んでるところも可愛いけど、うっかり許したりはしないよ!



「た、たぶん!一応マネージャーとして、日吉のプレイスタイルとか癖とかを把握してるつもりだから、ある程度サポートできたんだと思う。」

「ああ、助かった。」

「いやいや、こちらこそ!と言うか、基本的には日吉に助けてもらってばかりだったしね・・・・・・。」

「それじゃあ、約束通り、私たちは何か言うことを聞くわね。」



あ、そういえば。そんな賭けをしてたんだっけ。
ここは、やっぱりさっきのお返しをしよう。



「日吉。私が言ってもいい?」

「ああ、好きにしろ。」

「じゃ、二人の好きな人を教えてくださいっ!」

「はぁーーーっ?!!!」



神尾くん、ごめんね!でも、私も杏ちゃんにからかわれてばかりだから。少しはやり返したいの!
・・・・・・まあ、予想通り、杏ちゃんはいつも通りで、神尾くんの方が動揺しまくりだけど。
これじゃあ、神尾くんに八つ当たりしてるようなものか。



「何だよ、神尾。他校の俺たちに言ったって、そんなに害はねぇだろう〜?」

「うっせぇ、桃城!てめぇは黙ってろ!!・・・・・・ち、ちなみに、杏ちゃんは?」

「私?私は・・・・・・そうね。失恋しちゃうってわかってるんだけど。」

「えぇっ?!そうなのか?!杏ちゃんを振るなんて・・・・・・。」

「好きな人がいるって知ってるけど、そこも素敵だなぁ〜って思うの。」

「そ、それって・・・・・・俺も知ってたりする?」

「ええ。ここにいる全員が知ってるわ。」



杏ちゃんは何の躊躇いもなく、自身の想い人について語っている。
いや、これは何となく違うような・・・・・・。



「私の好きな人は・・・・・・ちゃんよ。」



ほらね!そう来たよ!嬉しいけどさ!!
と同時に、神尾くんも、別の意味で嬉しそうだった。



「な、何だ・・・・・・そういうことか。なら、俺は橘さんだな。」

「へぇ〜、お前。意外と大胆なんだな。」

「は?どういう意味だ?」

「いや、だって、本人目の前に、よくそんなことが・・・・・・。」

「ばっ!!違ぇよ!!俺が言ってんのは、部長の橘さん!!つーか、俺は杏ちゃんのこと、ずっと『杏ちゃん』って呼んでるだろうが!」

「あれ?そうだったっけか?」

「とぼけんな、桃城!!」

「ありがとう。きっとお兄ちゃんも喜ぶわ。」

「あ、いや・・・・・・橘さんにはすげぇお世話になってるし、尊敬もしてるし・・・・・・。」



結局、最後まで杏ちゃんは平常通りで、神尾くんだけが遊ばれてる感じになってしまった・・・・・・。
本当ごめん、神尾くん・・・・・・。でも!同じ恋する者同士、応援してるよ!
とか言ったら、余計にテンパっちゃうんだろうけど。



「悪いが、俺たちはもう帰るぞ。は二試合する体力無いだろ?」

「た、たしかに・・・・・・。」

「そう?残念ね。もっと話していたかったのに。」

「私だって!だから、また来るね?」

「ええ、楽しみにしてるわ。また連絡もするわね?」

「ありがとう!それじゃあ・・・・・・。」



みんなに挨拶して、私たちは帰る仕度を始める。
その間、杏ちゃんたちは、次に誰が試合をするか話し合っているみたいだった。

コートから離れ、階段を下り、そして、しばらくしても、日吉との会話が何も無かった。
試合に勝ったんだし、もう少しテンションが高くてもいいんじゃ・・・・・・?と思わなくもないけど。さっきの試合はあくまで遊び。もちろん、私も日吉も本気でプレイしてたけど、真剣勝負ってわけじゃない。
だから、日吉としてはいつも通りのテンションなのかなぁーと思ってたんだけど。



「・・・・・・。」

「んー?」

「お前・・・・・・好きな奴、いるのか?」

「・・・・・・・・・・・・。」



え、え、ええっ!???
予想外の言葉に、思わず固まる。



「さっきの話からすると、そうなんだろ?」



ちょっと杏ちゃん!!どうしてくれるの?!こんなことになっちゃったんだけど!!



「それなのに、神尾たちにあんな質問したんだな?自分がされたらどうするつもりだったんだ?」

「そ、それは・・・・・・。」

「俺なら・・・・・・。」



これまた予想外に、なぜか日吉が答えようとしてくれた。
き、聞きたいけど、聞きたくない気も・・・・・・!



だとは答えたくねえな。」



一瞬ドキッとした後、どん底へと突き落とされる。
そんな絶望が顔に出ていたんだろう。日吉はすぐに話を続けた。



「最後まで聞け。アイツらの前では答えたくないだけだ。・・・・・・でも、俺にはお前の名前以外浮かばねえんだよ。」

「それって、つまり・・・・・・?」

「お前はどうやって答えるつもりだったんだ?」



私の問いには答えず、日吉はさらに質問を返した。
それでも、そこまで言われたら・・・・・・。



「・・・・・・私も、『日吉』って答えたいところだけど、杏ちゃんみたいに、あの場なら『杏ちゃん』って答えておくと思う。」 

「・・・・・・そうか。」



そう言いながら、日吉は軽く息を吐いた。そんな風には見えなかったけど、どうやら、日吉も緊張していたようだ。
日吉でもそんなことあるんだ、と半ばぼんやりと考えていた所為で、ふと浮かんだ疑問をそのまま口にしてしまった。



「じゃあ、今日声をかけてくれたのは、練習っていうのもあるけど、相手が私だったから・・・・・・?」

「わざわざ先輩たちに声はかけねえよ。」



その言葉では、先輩たちよりかはマシなだけだった、とも取れる。・・・・・・日吉なら大いにあり得る。
でも、日吉の様子を見ると、ちゃんとそれだけじゃないことがわかった。



「あ、ありがとう・・・・・・。」

「・・・・・・ああ。」



杏ちゃん、さっきは責めるようなこと言って、ごめん!おかげ様で、両思いになれました!



「・・・・・・。」

「・・・・・・。」



でも、何だか恥ずかしくって、気まずい雰囲気にはなってしまった・・・・・・。



「そ、そういえば!杏ちゃん、前に跡部先輩に絡まれたことがあるらしくって。」

「跡部さんに?」

「そう!それで、そこには神尾くんもいたから、二人は跡部さんに敵対心?みたいなものを持ってるみたい。だから、ある意味、日吉とも話合うかもねっ!」

「・・・・・・そうかもな。」



そう言って、日吉は少し笑った。
何とか、杏ちゃんたちの話題で、気まずさは切り抜けられたみたい・・・・・・。
本当、最後までありがとう、杏ちゃん!・・・・・・それと。お先にごめんね、神尾くん!













 

アニプリ再放送を見てて、「やっぱり杏ちゃん良いよな〜」「杏ちゃんと桃城くんの絡み、良いよな〜」「いや、でも、杏ちゃんと神尾くんの絡みも良いよな〜」「ってか、やっぱり杏ちゃん可愛いな〜」と思った結果、こうなりました(笑)。

おかげで、日吉くんとの絡みが少なく、ダラダラとした話になってしまいました(苦笑)。まあ、いつものことですけど(滝汗)。
とりあえず、書いてる私は楽しかったです!(笑)

('15/08/09)